• New "Environmentalism"
ESG経営とランドスケープデザイン
2022.09.08

企業経営において、ESG(Environment, social, Governance)への対応に注目が集まっている昨今、当社に相談が持ちかけられる機会が、少しずつながら増えてきた。空間デザイン、特にランドスケープデザインという企業経営と一見結びつかないものが、環境問題への対策をきっかけに、経営戦略の一つに入っているということだろう。ランドスケープデザインが、このような企業に対してどのような役割を担えるのか探ってみたい。

ESGとSDGs
ESGとSDGsは一緒に語られることが多い。SDGsは、人類共通の活動の目的であり、目指すべきゴールとして国連で合意されている。これらを達成するために、個人そして組織レベルで行動することが社会的に求められている。気候変動や生物多様性など地球規模の環境問題が深刻化し、人類の永続性を脅かすリアルな出来事やニュースは近頃多くなってきた。企業の役割や存在意義が、利益重視から価値重視へ移行している兆候が見受けられるのも、こうした環境問題への対策が企業に問われているためである。そして対策を講じる企業に対して、投資家がより投資をする動きが強まっており、企業は長期的に価値を創出できるような、つまりは「持続可能な開発」を行うことが前提になってきている印象を受ける。こうしたESGという経営の手法によって、SDGsの達成につながると考えられる。

ESG経営におけるデザインへの期待
では、ESG経営の方針を掲げる会社は、空間デザインに何を期待するのか?具体的な空間とは企業の敷地、すなわちオフィスであり、そのデザインである。ランドスケープデザインに何ができるのだろうか?ランドスケープデザインでは、屋外や半屋外を対象とするほか、最近で室内緑化も求められることが多くなった。そもそもESGには、短期的な収益ではなく、長期的に生み出される価値が求められる。その価値とは、クライアントや従業員、地域社会といった多様なステークホルダーに応える価値であるのは、私も同意している。こうした視点、昨今の言葉で言う倫理観が、ランドスケープ分野が備えているものと重なっている。ランドスケープデザインでは、
・オープンスペースという、公的な役割を担った空間を主な対象とする
・木や水などの自然を主要な素材として用いる
・建物が竣工した後、数十年の長期的な変化を考慮している
など、持続可能な開発を検討する素地が分野として兼ねているのに気づく。このような自然環境への配慮とともに、働く空間がもたらすユーザーのウェル向上、地域社会とのコミュニケーションの機会創出など、社会的な価値を向上させる効果も含まれている。環境問題だけではなく、人権やコミュニティーといったサステナビリティに関わるナレッジとスキルを従前より抱えているのである。

これからのデザイン
当社は空間のデザインをしているし、実際にできあがった空間を通して、企業(クライアント)の環境、社会への倫理観が発信される。だからこそ、環境や社会への考え方は事業主と共に歩みながら議論を深めていく必要があるだろう。オフィスの空間はESG経営を映し出す鏡であり、オフィス空間の在り方はSDGsを達成する一助となる。単にかっこいいものを作るだけではなく、デザイン行為も社会的な活動であることを強く認識するこの頃だ。開発と保全の2元論だった時代もあり、開発によって自然が壊れるというトレードオフの考えもあった。しかし現在は開発によって、サステナブルな自然に書き換えることができる。開発によって、持続可能性な都市空間を創出することができると信じ、これからも自然と人為の間をデザインによって縫い合わせていきたい。